グループホームケアの取り組み事例集その1
グループホーム花音
   目の前の神社の銀杏が黄金色のジュータンを敷き詰める頃、グループホーム桜の里(仮名)を開設しました。
   間もなくして澄江さん(仮名 88 歳、介護度4、車椅子使用)が、ホームの仲間入りをされました。
住まいはすぐ傍ですが、入居前は1時間ほど離れた市内の病院に入院中でした。
面会に行くと人懐っこい笑顔で迎えて頂き、暮らしていた周囲の環境も覚えておられ、近くに住めることを説明すると大変喜ばれました。
   澄江さんは若くして夫を亡くされ子どももなく、姪ごさん宅で老後を過ごし、三味線の師匠としてお弟子さんも大勢おられたとの事でした。

   両足とも思うように動かず、入浴は職員二人で介助という生活でしたが、ユーモアたっぷりの笑顔の絶えないお人柄で、入居後は知人に数年ぶりに再会でき、とても満足しておられました。
部屋で過ごされることが多いのですが、毎日のリハビリを兼ねた歌の練習が始まると「唄いに行くばい(行くよ)」と言って楽しまれていました。

   大切にされていた三味線を持って来られていましたが、弾かれることはなく昔のように三味線に興味を持たれるきっかけになればと思い、夫が三味線をお借りしてギターを弾く感覚で弾いてみると「違う、違う、そやん音じゃなか(そういう音じゃない)一番弦がおうとらん(合ってない)貸してみなっせ」と、久しぶりに三味線を手に取られました。
   その時の生き生きとした目の輝きと表情の変化、目を合わせたスタッフ同士あっけにとられ、その変わり様に思わず嬉しくなり笑ってしまいました。
好きだった三味線に触れることで若い頃の感覚や記憶が甦られた様子でした。

   澄江さんが積極的に参加される事で、「おばちゃんも頑張っとらすな」との声が聞かれるようになりましたが、それから、しばらくして体調が思わしくなく、病院を受診すると癌が見つかり余命幾ばくも無い診断でした。
   医師やご家族と話し合い、最期までホームでお預かりすることになり、病院の指示で酸素吸入などを行いながら、夫と交代で付き添い看病を行いました。
   酸素マスクを付けようとされず、「きつかね(きついね)一緒に頑張ろう」と言葉をかけると、「もうよか、私の好くごつする(好きなようにする)」と話されると、涙がこぼれて止まりませんでした。
   手足を擦り一緒に唄ったりすると、以前のような元気はありませんが最後まで笑顔を見せてくれ、優しい声で「きつかね、よかばい(もういいよ)」「ありがとね」「ごめんね」と優しい心遣いの言葉を頂きました。

   最期は、歌を唄われているような、とても安らかな表情でした。

   澄江さんの三味線に触れた事がきっかけで、三味線の音と共に入居者さんの民謡による施設慰問や、地元のお寺での発表会に出場するまでになり、地域との交流が広がりつつあります。

   そして、人との交わりが億劫で、部屋からなかなか出て来られないハナエさんも、三味線に合わせて唄う事を楽しみにされるようになり、皆さんから「ハナエさんは美人で歌も上手」との声も聞かれるようになりました。
   声がかかると自分から起きられるようになられ、仲良くおしゃべりしたり歌を唄う時間が増え、慰問にも出掛けて行かれるなど、すっかり元気になられ、今では積極的にホームの生活を楽しむようになられました。

   澄江さんは歌の好きな私たちのホームに、かけがえのない宝物を残して、今でも天国で一緒になって歌を楽しんでおられるのではないでしょうか。

澄江さん、ありがとう!




・事例提供者:永野宏之
              永野佳代子

・事例のテーマ:「いくつになっても 歌は友だち」

・サブテーマ:~地域の人と人とを結ぶ利用者さんの歌声~

・事例のポイント:
「利用者の三味線がきっかけとなり、地域住民との馴染みの関係作りや福祉活動につながった事例」

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